ジャンル 文学の心

早稲田校

漱石文学の世界

  • 春講座
  • オムニバス

中島 国彦(早稲田大学名誉教授)
長島 裕子(秀明大学客員教授)
安藤 文人(早稲田大学元教授)
藤尾 健剛(大東文化大学教授)
石原 千秋(早稲田大学教授)
藤井 淑禎(立教大学名誉教授)
松下 浩幸(明治大学教授)
山本 亮介(東洋大学教授)
服部 徹也(東洋大学准教授)

曜日 土曜日
時間 10:40~12:10
日程 全9回 ・04月06日 ~ 06月08日
(日程詳細)
04/06, 04/13, 04/20, 04/27, 05/11, 05/18, 05/25, 06/01, 06/08
コード 110118
定員 30名
単位数 1
会員価格 受講料 ¥ 26,730
ビジター価格 受講料 ¥ 30,739

目標

・漱石の魅力をさまざまな角度から明らかにしていきます。
・漱石と関連する文学者にも幅広く眼を注ぎ、漱石を立体的に考えます。
・作品分析の面白さを実感していきます。

講義概要

昨年の秋学期で『吾輩は猫である』から『漾虚集』『坊っちゃん』『草枕』まで扱いましたが、今期はその時期の問題点をまとめ、『二百十日』から『虞美人草』『坑夫』までを扱いたいと思います。この時期に漱石は、朝日新聞社に入社、職業作家の道を選びます。今回は松下浩幸、石原千秋、長島裕子、服部徹也、藤井淑禎、藤尾健剛、安藤文人、中島国彦の8名に加え、新しく山本亮介を加えた9名で、それぞれの視点からこの時期の作品の魅力、問題点を明らかにしていきます。作品をお手元において、ご一緒に職業作家に転身する転換期の漱石の世界に入っていただけましたら幸いです。(企画・中島国彦早稲田大学 名誉教授)

各回の講義予定

日程 講座内容
1 04/06 「吾輩は猫である」:〈語る猫〉に浮上する小説の課題と可能性 小説「吾輩は猫である」が発する最大の魅力は、何といっても「吾輩」を自称する猫の語り口にあると言えるでしょう。そのユーモアあふれる無数の表現、自他に向けられた自由闊達な見解は、発表当時から現在に至るまで多くの読者を魅了してきました。〈語る猫〉のアイデアと文体は、小説家夏目漱石の誕生を駆動するモーターの役割を果たしたとも考えられます。
一方、好評を博した作品が予期せぬ長編となるなか、〈語る猫〉の効用は最大限にまで引き伸ばされていきます。そこでは、小説というジャンルが抱える表現上の課題が浮き彫りになります。のちに漱石が数々の作品で取り組む試行錯誤の起点を、合わせて確認したいと思います。(山本 亮介)
2 04/13 「二百十日」―〈未完の旅〉が意味するものー 熊本時代、同僚の山川信次郎とともに阿蘇を訪れた漱石は、それをモデルに後年、「二百十日」という短編小説を書くことになる。執筆当時、漱石は教師と作家の二足の草鞋を履き、多忙を極めていたせいか、この作品は内容が淡泊で、「圭さん」と「碌なさん」の冗長な会話が続き、漱石の胸の内にあった「百年の不平」を「圭さん」が代弁しているだけの小説のようにみえる。阿蘇登頂を目指すも二百十日によって、その途上で終わるこの作品がもつ意味は何なのだろうか。いま一度、この〈未完の旅〉が持つ意味を再考してみたい。(松下 浩幸)
3 04/20 『野分』ーー宙に浮いた「人格論」 漱石は『野分』のような小説を書きたくて、また書けると思って朝日新聞社の専属作家になったのかもしれいない。しかし、ことはそう運ばなかった。それは『野分』はどこから見ても失敗作だからである。当時、東京帝国大学文科大学の主な就職先は中学校だった。しかし、社会批判が世間に届くほどの地位ではない。空振りはわかりきっていた。白井道也の「人格論」も結局は世に出ない。もっとも大きな問題は、道也の思想の根底にある「趣味」という言葉の意味を、道也自身がわかっていなかったからではないだろうか。道也の「孤独」の意味も考えたい。失敗作こそ論じるに値する。(石原 千秋)
4 04/27 朝日入社をめぐって 「吾輩は猫である」の発表後二年余たった明治40年3月、東京朝日新聞から入社を請われた漱石は、主筆の池辺三山との面会を経て入社を決意しました。漱石は、一高、東大の職を辞し、5月3日掲載の「入社の辞」において、自ら、「新聞屋」」になることを明らかにしました。入社に至る過程を追い、創作に集中できる環境に身を置くために、どのような条件を双方で確認したのかをみていきたいと思います。新聞社の社員として創作活動をすることが、漱石にどのような変化をもたらしたのか、考えてみたいと思います。(長島 裕子)
5 05/11 「文芸の哲学的基礎」における「連続」 漱石の初期創作を考えるうえでは、文学研究者から専業作家となり長編連載を手がけるという大きな転換点に注目することが重要である。漱石は『虞美人草』の連載に先立って、講演速記をもとにして加筆した論文「文芸の哲学的基礎」を朝日新聞上に連載した。そのなかには漱石の大学における文学研究のエッセンスが詰め込まれている。読者を夢中にさせる小説の力を意識の「連続」に基づく文学の力学と呼ぶ漱石は、その理論をどのように創作につなげていったのだろうか。同論文を中心に、大学での講義や田山花袋との論争などを関係づけることで、「連続」小説を成立させ続けた漱石の実践をささえた理論について考察する。(服部 徹也)
6 05/18 『虞美人草』と美辞麗句体 昨年度は『草枕』における美辞麗句体の様相を検討した。漱石における美辞麗句調のピークといえば、やはり『草枕』と『虞美人草』ということになるだろう。今回はもう一つの『虞美人草』について考えてみる。前回受けられた方にも今回初めての方にも不都合のないよう工夫してお話しする。どの程度読者を意識して美辞麗句を採用したのか、とか、どういう場面で多用したのか、とかは作者の問題。他方、読者の方も、感嘆したり反発したり納得したり失望したり、など様々な反応をみせたのではないか。さらには、教科書としての美辞麗句作法書をめぐる問題など、考察の範囲は広大である。(藤井 淑禎)
7 05/25 『虞美人草』の「道義」 『虞美人草』では、「道義」が高唱されているが、その具体的内実が詳しく吟味されているとは言えない。講義では、朱子学の観点から「道義」を解釈する。また、この作品の人物造形などに朱子学がどのように関与しているかを検証する。朱子学的な発想を取り入れることが、現代文明に対してどのような意味をもつかを考えたい。(藤尾 健剛)
8 06/01 「坑夫」は小説か 人生を歩みながら「人生とは何か」を考えるように、漱石は常に「小説とは何か」を考えながら小説を書き続けた。中でも、小説そのものへの問いを起点、あるいは核として書かれたのが『坑夫』である。この作品は「そうしてみんな事実である。その証拠には小説になっていないんでも分る」という「語り手」の言葉で閉じられているが、では、「作者」漱石はいったい「何」を書いたつもりだったのだろう?講義では、小説というジャンル自体を問い直すという、すぐれて同時代(20世紀)的・世界文学的な問題意識が、漱石によってどのように共有され、どのような独自性をその創作にもたらしたか、考えてみたい。(安藤 文人)
9 06/08 「坑夫」への新視点 「坑夫」は、若者の体験談をもとに書かれており、漱石が聞き取ったメモが残されています。そうした周辺資料も参照しつつ、この作品成立の意味を考えたいと思います。「大阪朝日新聞」連載時には、東京の新聞にはない挿絵が、途中まで掲載されています。そこにも目を注ぎ、新しい視点から作品を見つめます。現在手に入る岩波文庫『坑夫』には、その挿絵が載っていますので、ぜひご覧になってください。(中島 国彦)

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆各回担当講師・担当回・各回講義内容は変更となる場合があります。
◆休講が発生した場合の補講は6月15日(土)を予定しています。

講師紹介

中島 国彦
早稲田大学名誉教授
1946年東京都生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了、博士(文学)。公益財団法人日本近代文学館理事長。日本近代文学専攻。著書『近代文学にみる感受性』(筑摩書房)、『夏目漱石の手紙』(共著、大修館書店)、『漱石の愛した絵はがき』(共編、岩波書店)、『漱石の地図帳―歩く・見る・読む』(大修館書店)、『森鷗外 学芸の散歩者』(岩波新書)等。

長島 裕子
秀明大学客員教授
早稲田大学大学院修士課程修了。現在、秀明大学客員教授。専門分野は日本近代文学。著書に、『夏目漱石の手紙』(共著、大修館書店)、『文章の達人 家族への手紙4 夫より妻へ』(編著、ゆまに書房)、『漱石の愛した絵はがき』(共編、岩波書店)がある。
安藤 文人
早稲田大学元教授
岐阜県生まれ。早稲田大学第一文学部、同大学院において英文学を専攻した後、比較文学に転じ、英国18世紀作家ロレンス・スターンが漱石の初期作品に与えた影響について研究を続けている。文学学術院において英語科目を担当。英語関係の著作に『アウトプットに必要な英文法』(研究社)他がある。
藤尾 健剛
大東文化大学教授
1959年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、同大学院文学研究科修士課程修了。香川大学助教授をへて、現職。著書に、『夏目漱石の近代日本』(勉誠出版)、『川端康成 無常と美』(翰林書房)がある。
石原 千秋
早稲田大学教授
1955年、東京都生まれ。成城大学文芸学部卒業、同大学院博士後期課程中退(文学修士)。東横学園女子短期大学助教授、成城大学教授を経て、現職。著書『漱石と三人の読者』(講談社現代新書)、『『こころ』で読みなおす漱石文学』(朝日文庫)、『漱石入門』(河出文庫)、 『漱石はどう読まれてきたか』(新潮選書)など。
藤井 淑禎
立教大学名誉教授
愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学卒業。立教大学大学院博士課程満期退学。専門は日本近代文学・文化。著書に、『清張 闘う作家』(ミネルヴァ書房)、『名作がくれた勇気』(平凡社)などがある。
松下 浩幸
明治大学教授
専門分野は日本近現代文学。著書に『夏目漱石―Xなる人生』(NHK出版)、共著に『夏目漱石事典』(勉誠出版)、『異文化体験としての大都市―ロンドンそして東京』(風間書房)、『日本近代文学と〈家族〉の風景―戦後編』(明治大学リバティアカデミー)など。
山本 亮介
東洋大学教授
1974年、神奈川県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。専門分野は、日本近現代文学。信州大学を経て現職に至る。著書に、『横光利一と小説の論理』(笠間書院)、『小説は環流する―漱石と鷗外、フィクションと音楽』(水声社)などがある。
服部 徹也
東洋大学准教授
1986年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科後期博士課程単位取得退学。同大学院文学研究科助教(非常勤)、大妻女子大学非常勤講師、大谷大学助教等を経て、現職。専門は日本近代文学・文学理論。共著に小平麻衣子編『文芸雑誌「若草」:私たちは文芸を愛好している』(翰林書房)など。
  • 外国語 コースレベル選択の目安
  • 広報誌「早稲田の杜」
  • オープンカレッジ友の店