ジャンル 人間の探求

オンデマンド

【オンデマンド】呪術の世界 人はなぜ、呪術に魅せられるのか

  • 秋講座

正木 晃(宗教学者)

コード 930503
定員 25名
単位数
会員価格 受講料 ¥ 19,800
ビジター価格 受講料 ¥ 19,800

目標

・呪術こそ宗教の原点という事実を確認します。
・仏教やキリスト教など、最高次元とされる宗教にも呪術的な要素が存在する事実を学びます。
・以上の考察を通じて宗教の本質を見極め、私たちが宗教とどう向き合うか、考えます。

講義概要

宗教の領域で「呪術」というと、低級な宗教のレッテルを貼られがちです。言い換えると呪術と縁がないことが高級な宗教の条件とみなされがちです。しかし実はあらゆる宗教に呪術的な要素が存在します。また宗教の起源や由来を考えるとき、呪術こそが宗教の原点にあった事実に気付きます。そして物質主義が精神世界を圧倒しているかに見える現代社会においてすら、呪術は生き残っています。そもそも宗教に欠かせない「祈り」という行為は合理的な根拠がないという点で呪術と通じています。本講座では仏教・キリスト教・イスラム教のような世界宗教/普遍宗教も偉大な宗教者たちも、呪術と全く無関係でなかった事実を指摘し、宗教の本質に迫ります。

各回の講義予定

講座内容
1 宗教の原点としての呪術ー『アタルヴァ・ヴェーダ』 インド宗教最古の文献とされるヴェーダは呪術と呪術による現世利益の宝庫です。この事実から宗教の原点に呪術があったことを認めざるを得ません。
2 ゴータマ・ブッダと呪術 仏教の開祖ゴータマ・ブッダは呪術を禁止したと伝えられます。ただしそれは条件付きであり、毒蛇よけの呪文など、一部の呪術を容認していました。また彼は神々のみならず悪魔とも対話し、死霊をありありと見るなど、尋常ならざる呪術的能力を秘めていたのです。
3 イエス・キリストの病気治療と呪術 新約聖書を読むと、イエスは病にとりつかれた多くの人々を、とりわけ心を病んだ人々を癒やしています。そのときイエスは病人の身体に触れたり、言葉をかけたりしています。これらはやはり呪術とみなせます。そしてイエスの癒やしの力が彼の教えを広めるうえで、大きな役割を演じたことは否定できません。
4 旧約聖書の預言者たちと「神がかり」 旧約聖書に登場する預言者たちは、神の声を聞き、それを人々に伝えました。その際、彼らは忘我状態やいわゆる神がかりの状態に入っていたという記述が見られます。現に彼らは「ナビー」とも呼ばれていました。直訳すると「よだれを垂らす者」です。この状態は、宗教学で言うシャーマンによく見られます。とすれば預言者たちもまた呪術者だったのかもしれません。
5 祟りと怨霊/悪魔払い 日本の古代から中世の時期、仏教僧に強く求められた能力の一つに、怨霊対策がありました。怨霊とは非業の死を遂げた人物が死後、恐ろしい死霊と化して、生前その人を死に至らしめた者に祟ることです。空海が台頭できた理由の一つは、怨霊対策に大きく貢献したことでした。実は現代でも、祟りを怖れる人は少なからずいるらしく、その方面に通じた僧侶がもてはやされています。
6 呪殺の秘法 開祖のゴータマ・ブッダ以来、仏教は他の宗教に比べ、暴力の行使にはるかに否定的です。しかし仏教に敵対し、世の中に害悪をもたらす者を、やむなく死に至らしめることは、時により許されていました。その際は呪術が行使されました。そしてただ単に殺すのではなく、死者の霊魂を仏菩薩の浄土へ送り込んで、成仏させると主張したのです。それが呪殺です。日本でもチベットでも実践されました。典型例は平将門の呪殺です。一説には第二次世界大戦の末期、アメリカ大統領を呪殺したという、真偽定かならぬ話もあります。
7 親鸞・日蓮と呪術 親鸞は呪術と全く無縁で、もちろん現世利益など否定したと考えられがちです。実は親鸞は「南無阿弥陀仏」という念仏に呪術的な力を認め、称えることで現世利益を得られると説いています。また日蓮も「南無妙法蓮華経」という題目に、よく似た力を認めていたのです。また親鸞は聖徳太子にまみえ、日蓮は不動明王と愛染明王をありありと見ています。そこに呪術的な要素がなかったとは、とても思えません。
8 江戸の悪魔払い師 江戸時代、徳川家の宗旨は浄土宗であり、東京の増上寺が菩提寺でした。増上寺の住職は御三家と同等の扱いを受けるほど、尊崇されていました。その増上寺の住職に、捨て子同然から立身出世した人物が就任しています。祐天です。彼は「南無阿弥陀仏」と称える念仏の威力で、悪魔払いにたびたび成功し、その功績で至高の地位に就いたのでした。キリスト教のエクソシストに匹敵する存在だったといえます。
9 「手かざし」教団 現代日本のいわゆる新宗教教団の中に「手かざし」、つまり病んだ人の身体各部に、強い信仰を持つ人が手をかざし、神から発せられたエネルギーを注ぎ込んで癒やすという、一種の治療行為をいとなむ教団が複数あります。「手かざし」の由来については、修験道からとか、明治時代に西欧から輸入されたメスメリスムからとか、諸説ありますが、いずれにしても現代における呪術としてはかなり目を引きます。
10 日蓮宗の「荒行」 現代日本の仏教界で実践されている最も過酷な修行は日蓮宗の「荒行」です。冬期の100日間、堂内にこもり、睡眠時間は2時間半、一日7回にわたり頭から冷水をかぶり、その他の時間はひたすら法華経を読誦し続けます。修行の終わりには体重が平均で10kg減るくらいの厳しさです。そしてその目的は加持祈祷、すなわち仏教における呪術の力を身につけ、人々を救うこととされます。これほどまで過酷な修行に挑む僧侶が後を絶たない背景には、現代人の呪術に対する期待があるようです。

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆視聴期間は一般申込開始(2024/08/27)から学期終了翌月末(2025/01/31)までになります。一般申込開始(2024/08/27)以降はお申し込みいただけましたら視聴可能になります。
◆この講座は
2024年度 春期 「呪術の世界」 (04/06〜06/22 土曜日、全10回)
で開講した講座のアーカイブ講座になります。
◆途中映像音声の乱れるところがありますがご了承ください。
◆オンデマンド講座のため講義内容に関する質疑は受付けいたしかねます。あらかじめご了承お願いいたします。

講師紹介

正木 晃
宗教学者
1953年、神奈川県小田原市生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本仏教・チベット仏教)。文献研究に留まらず、現地調査を実施しチベット・ヒマラヤ地域の調査は20回に及ぶ。高度でありながら誰でも理解できる仏教学を志向。著作は『「ほとけ」論』『現代日本語訳 法華経』など多数。

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