ジャンル 文学の心
早稲田校
漱石文学の世界
中島 国彦(早稲田大学名誉教授)
長島 裕子(秀明大学客員教授)
安藤 文人(早稲田大学元教授)
藤尾 健剛(大東文化大学教授)
石原 千秋(早稲田大学教授)
藤井 淑禎(立教大学名誉教授)
松下 浩幸(明治大学教授)
服部 徹也(東洋大学准教授)
曜日 | 土曜日 |
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時間 | 10:40~12:10 |
日程 |
全8回
・09月27日 ~
12月06日 (日程詳細) 09/27, 10/04, 10/11, 10/18, 10/25, 11/22, 11/29, 12/06 |
コード | 130104 |
定員 | 30名 |
単位数 | 1 |
会員価格 | 受講料 ¥ 23,760 |
ビジター価格 | 受講料 ¥ 27,324 |
目標
・漱石の魅力をさまざまな角度から明らかにしていきます。
・漱石と関連する文学者にも幅広く眼を注ぎ、漱石を立体的に考えます。
講義概要
春学期は「修善寺の大患」までの時期を多角的に分析してきましたが、秋学期はちょうど時期的に接続する長野講演旅行、関西講演旅行から、「彼岸過迄」「行人」の世界を考えたいと思います。作品を読み込む一方で、その時期の他の文学者との関係にも目を向けることにより、漱石の明治44年、45年、大正2年の歩みを辿っていきたいと思います。「悲願過迄」については2回、「行人」については3回を配当し、複眼的に分析します。春学期担当の、石原千秋、安藤文人、藤尾健剛、藤井淑禎、松下浩幸、服部徹也、長島裕子、中島国彦の8名で、今回も担当していきます。(企画・中島国彦 早稲田大学名誉教授)
各回の講義予定
回 | 日程 | 講座内容 | |
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1 | 09/27 | 長野講演旅行をめぐって | 明治44年2月に長與胃腸病院を退院した漱石は、徐々に活動範囲を広げていきました。信濃教育会から講演を頼まれ、6月には鏡子を伴って長野に向かいました。さらに、修善寺で世話になった森成医師が高田で開業しており、招かれて高田でも講演を行ないました。その後諏訪に向かい、講演をして4泊5日の旅を終えています。関西への講演旅行に先立つ長野の講演旅行のエピソードを紹介しつつ、この旅行の意味を考えていきたいと思います。(長島裕子) |
2 | 10/04 | 「現代日本の開化」とその周辺 | 漱石は明治44年、大阪朝日新聞社が催した連続講演会で関西・中国地方に赴き、「道楽と職業」「現代日本の開化」「中身と形式」「文芸と道楽」という講演を行なう。これらの講演を漱石の英国留学以来の探求の延長線上にあるものとして読み解き、それが小説のなかにどのように投影されたかを考えたい。たとえば和歌山で行なわれた「現代日本の開化」は解決策のない袋小路を提示して終わっている。その構造を和歌浦を描く『行人』の一郎の行き詰まりに重ね合わせてみたとき、何が見えてくるだろうか。(服部徹也) |
3 | 10/11 | 池辺三山への眼差し | 関西講演旅行から帰った直後、明治44年9月も池辺三山が「朝日新聞」を退社するという事件が起きた。漱石の思いは当時の書簡に表れているが、「文芸蘭」の廃止は、その一つの表れだったろう。間も無く、45年2月に三山が急逝する。追悼文「三山居士」や、三山の著作への序文などを通して、漱石の三山への熱い思いをたどってみたい。 (中島国彦) |
4 | 10/18 | 『彼岸過迄』の変容—「浪漫」から「自然」へ | 連載に先立って書かれた「彼岸過迄に就て」の中で、漱石は、自分は「自然派の作家」でも「象徴派の作家」でも「ネオ浪漫派」の作家でもなく、「自分の作物が固定した色に染附けられてゐるといふ自信」はないし、そんな自信は不必要だとしている。しかし、この作品の読者は、最後に「一長編を構成するやうに仕組ん」だはずの個々の短編について、それぞれの作物としての「色」があまりに固定されていないことに、むしろ戸惑ってしまうのではないだろうか。今回の講義では、それを「浪漫」から「自然」へという「色」の変容として捉え、漱石の試行とその結果について考えてみたい。(安藤文人) |
5 | 10/25 | 『彼岸過迄』―漱石と門下生 | 修善寺の大患後、漱石と門下生たちとの関係は必ずしも良好なものではなかった。とりわけ、『煤煙』によって門下生たちのあいだでアイドル視されていた森田草平との関係は険悪といってほど悪化していた。『彼岸過迄』は、師弟間の対立を反映する作品であり、弟子たちからの批判に対する応答の意味をもつ作品である。このような観点から、『彼岸過迄』の読解を試みる。(藤尾健剛) |
6 | 11/22 | 「紅が谷」が「紅が谷」としか記されなかったわけ | 十日間の旅の果てに一郎とHさんが辿りついた場所は、『行人』では「紅が谷」とのみ、記されています。しかし、そこは、「烈しい煩悶家」である一郎がつかの間の安息を得る極めて重要な場所でもあります。これに対して次作『心』の冒頭では、先生の滞在先は、「鎌倉」とのみ、記されています。しかし、実はこの二つは同一の場所とも考えられ、しかもその背後には、漱石の実生活が横たわってもいたのです。今回は、こんなことをとば口として、一郎の煩悶の根源―理由と、その同時代的背景にも迫ってみたいと思います。(藤井淑禎) |
7 | 11/29 | 長野一郎と長野二郎は二人で一人 | 夏目漱石は初期から二人の主人公を組み合わせて小説を書いてきた。後期三部作と言われる『彼岸過迄』『行人』『こころ』では、考える主人公とそれを観察する主人公によって構成されている。『行人』はさらにHさんが加わる。Hさんは二郎のことも一郎の妻直のことも詳しく知るはずはない。とすれば、Hさんが見た物語は一郎一人の身の上に起きたものであり、二郎はそれにさらに物語を付け加えたことになる。なぜ?それを考えたい。(石原千秋) |
8 | 12/06 | 『行人』―「見合い」結婚と三角関係― | 日本においても、〈恋愛〉が近代の発見であったという考えはすでに広く知られている。だが『行人』が発表されたほぼ同時期に、日本の民俗学の萌芽を立ち上げた柳田国男は、後に「恋愛技術の消長」という文章のなかで、キリスト教経由で日本に輸入された近代的恋愛観とは違う、もう一つの恋愛の形が日本の村落にあったことを提示している。この柳田の文章を参照しつつ、「見合い(遠方婚)」と自由恋愛という、近代の男女関係をめぐる二つの言説が交錯する場として『行人』という作品をとらえることで、どのような明治期の近代社会の問題が見えてくるだろうか。その一端を考えてみたい。(松下浩幸) |
ご受講に際して(持物、注意事項)
◆休講が発生した場合の補講は12月13日(土)を予定しています。
◆各回担当講師・担当回・各回講義内容は変更となる場合がございます。
講師紹介
- 中島 国彦
- 早稲田大学名誉教授
- 1946年東京都生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了、博士(文学)。公益財団法人日本近代文学館理事長。日本近代文学専攻。著書『近代文学にみる感受性』(筑摩書房)、『夏目漱石の手紙』(共著、大修館書店)、『漱石の愛した絵はがき』(共編、岩波書店)、『漱石の地図帳―歩く・見る・読む』(大修館書店)、『森鷗外 学芸の散歩者』(岩波新書)等。
- 長島 裕子
- 秀明大学客員教授
- 早稲田大学大学院修士課程修了。現在、秀明大学客員教授。専門分野は日本近代文学。著書に、『夏目漱石の手紙』(共著、大修館書店)、『文章の達人 家族への手紙4 夫より妻へ』(編著、ゆまに書房)、『漱石の愛した絵はがき』(共編、岩波書店)がある。
- 安藤 文人
- 早稲田大学元教授
- 岐阜県生まれ。早稲田大学第一文学部、同大学院において英文学を専攻した後、比較文学に転じ、英国18世紀作家ロレンス・スターンが漱石の初期作品に与えた影響について研究を続けている。文学学術院において英語科目を担当。英語関係の著作に『アウトプットに必要な英文法』(研究社)他がある。
- 藤尾 健剛
- 大東文化大学教授
- 1959年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、同大学院文学研究科修士課程修了。香川大学助教授をへて、現職。著書に、『夏目漱石の近代日本』(勉誠出版)、『川端康成 無常と美』(翰林書房)がある。
- 石原 千秋
- 早稲田大学教授
- 1955年、東京都生まれ。成城大学文芸学部卒業、同大学院博士後期課程中退(文学修士)。東横学園女子短期大学助教授、成城大学教授を経て、現職。著書『漱石と三人の読者』(講談社現代新書)、『『こころ』で読みなおす漱石文学』(朝日文庫)、『漱石入門』(河出文庫)、 『漱石はどう読まれてきたか』(新潮選書)など。
- 藤井 淑禎
- 立教大学名誉教授
- 愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学卒業。立教大学大学院博士課程満期退学。専門は日本近代文学・文化。著書に、『清張 闘う作家』(ミネルヴァ書房)、『名作がくれた勇気』(平凡社)などがある。
- 松下 浩幸
- 明治大学教授
- 専門分野は日本近現代文学。著書に『夏目漱石―Xなる人生』(NHK出版)、共著に『夏目漱石事典』(勉誠出版)、『異文化体験としての大都市―ロンドンそして東京』(風間書房)、『日本近代文学と〈家族〉の風景―戦後編』(明治大学リバティアカデミー)など。
- 服部 徹也
- 東洋大学准教授
- 1986年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科後期博士課程単位取得退学。同大学院文学研究科助教(非常勤)、大妻女子大学非常勤講師、大谷大学助教等を経て、現職。専門は日本近代文学・文学理論。共著に小平麻衣子編『文芸雑誌「若草」:私たちは文芸を愛好している』(翰林書房)など。