ジャンル 世界を知る

早稲田校

「飲」と「食」のイギリス文化史 「飲」の部

  • 春講座

齊藤 貴子(早稲田大学非常勤講師、上智大学大学院講師)

曜日 火曜日
時間 15:05~16:35
日程 全10回 ・04月07日 ~ 06月16日
(日程詳細)
04/07, 04/14, 04/21, 04/28, 05/12, 05/19, 05/26, 06/02, 06/09, 06/16
コード 110320
定員 30名
単位数 2
会員価格 受講料 ¥ 29,700
ビジター価格 受講料 ¥ 34,155

目標

・イギリスの歴史文化を広く深く学ぶ。
・文学や絵画、音楽などのイギリスの芸術はもちろん、政治および経済の分野においても看過できない様々な飲料の歴史および現代に通じる多様な文化現象を知る。
・飲食という日常的かつ普遍的な不可欠の営み、今期は特に古くから飲まれてきたアルコールおよびノン・アルコールの各種身近な飲み物に注目することで、イギリスと日本双方の歴史ある文化の来し方行く末にまで思いを馳せる。

講義概要

イギリスといえば「紅茶の国」ですが、実のところ紅茶よりもコーヒーのほうがやや早く17世紀のイギリスにもたらされており、もっと古くから飲まれてきたのはビールやワイン、ウィスキーといった酒類にほかなりません。イギリス食文化の主流にコーヒーや紅茶など新手のノン・アルコール飲料が加わってから同国社会はダイナミックな変化と成長を遂げましたが、それでも各種アルコールの豊かな歴史と伝統が連綿と続いてきたことは事実です。本講座ではアルコールとノン・アルコール双方の観点からイギリス歴史文化を概観し、シェイクスピアをはじめとする文学、絵画、音楽といった芸術を通じて歴史ある飲料への知識と理解を深めてまいります。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 04/07 イントロダクション:時代はアルコールからノンアルコールへ? 17世紀のコーヒーと紅茶の登場により、イギリス食文化の主流に新手のノン・アルコール飲料が加わって既に400年近く……。21世紀の今日では、高まる健康志向の一環として、ソバーキュリアス(アルコールを飲める人があえて飲まない)という新たなライフスタイルまでもが広まっています。それでも酒類が依然として飲まれ続けている事実はいったい何を意味するのでしょうか。この答えを模索するべく、まずはイギリスにおけるアルコールとノン・アルコール文化それぞれの変遷を概説します。
2 04/14 紅茶を知らないシェイクスピア① イギリスは「紅茶の国」であると同時に「シェイクスピアの国」でもあります。これにほとんど異論はないものと思われますが、紅茶がイギリスにもたらされたのがどう早く見積もっても17世紀も半ば近くになってからである以上、誠に残念ながらシェイクスピア(1564〜1616)は紅茶を知りませんでした。事実、彼の残した詩にも戯曲にも「茶」への言及は見当たりませんが、かわりにかなりの確率で登場するのがアルコール――それもワインです。一口にワインといっても色々ありますが、シェイクスピア作品におけるワインの扱われ方について、16世紀イングランドにおけるワイン事情など踏まえながら、各作品のテクストを基に確認・考察していきます。
3 04/21 紅茶を知らないシェイクスピア② イギリスは「紅茶の国」であると同時に「シェイクスピアの国」でもあります。これにほとんど異論はないものと思われますが、紅茶がイギリスにもたらされたのがどう早く見積もっても17世紀も半ば近くになってからである以上、誠に残念ながらシェイクスピア(1564〜1616)は紅茶を知りませんでした。事実、彼の残した詩にも戯曲にも「茶」への言及は見当たりませんが、かわりにかなりの確率で登場するのがアルコール――それもワインです。一口にワインといっても色々ありますが、シェイクスピア作品におけるワインの扱われ方について、16世紀イングランドにおけるワイン事情など踏まえながら、各作品のテクストを基に確認・考察していきます。
4 04/28 コーヒー・紅茶にならぶ「第三のノン・アル」チョコレート チョコレートが食べ物=固形となったのは19世紀に入ってからのことであり、16世紀にスペイン経由でヨーロッパにもたらされて以来ずっと「飲み物」であったことは比較的よく知られている話です。イギリスでも、喫茶店の元祖「コーヒーハウス」が隆盛を極めていた18世紀には「チョコレート・ハウス」なるものが存在して大いに繁盛していましたし、食べるチョコレートを製造する「チョコレート工場」は産業革命発祥の地であるイギリスから生まれたものです。様々な面で切っても切り離せないイギリスとチョコレートのちょっと意外な歴史についてお伝えします。
5 05/12 ロンドンの哀しき「ミルク売り」 コーヒー、紅茶とならび大人気ノン・アルコール飲料となったチョコレートに牛乳を加えることを思いつき、滑らかな口当たりを生み出したのは18世紀イギリスの某有名医師だといわれています。事の真偽はともかく、産業革命以降の大都会ロンドンでは牛乳は高価かつ入手困難であり、当初ミルク入りチョコレートやミルク・ティーを楽しむことができたのが、医師のようなごく一部の限られた人びとであったことは事実です。牧畜が盛んだった地方は別として、ロンドン市内および近郊での牛乳の流通の歴史、特に公園や地下室などひどく不衛生な環境での搾乳と行商に従事していた19世紀までの牛乳販売者たちについて、近代イギリスの代表的な小説やラファエル前派の絵画等から広く学んでいきます。
6 05/19 もうひとつの「神の雫」アップル・サイダー 「サイダー(cider)」といえば日本では某老舗メーカーの清涼飲料水、アメリカやカナダでもリンゴ・ジュースのことを指しますが、イギリスではもっぱら「リンゴ酒」のことを意味します。異文化のちょっとした壁を感じる一例ですが、イギリスのアップル・サイダーもまた日本酒やワイン同様、良い意味で非常に土着的な飲み物で、生産地域ごとに異なる個性と長い歴史を誇るアルコール飲料にほかなりません。人間の歴史と同じくらい古いリンゴの文化史の一翼を担うアップル・サイダーのあれこれについて、近・現代イギリスを代表するジョン・キーツの詩やジェラルド・フィンチの音楽からヒントを得て考察を深めていきます。
7 05/26 スコットランドの「命の水」ウィスキー ウィスキー発祥の地がスコットランドかアイルランドかは別にして、スコッチ・ウィスキーの産地スコットランドが我が国の名だたる先達も大いに学んだ「ウィスキーの国」であることは間違いありません。事実、ゲール語で「命の水」という意味をもつウィスキーなる飲み物の歴史は、スコットランドの歴史そして経済そのものを背負ってきたと言っても過言ではないでしょう。スコッチ・ウィスキーの長い歴史を、主としてスコットランドおよびイングランドの歴史上の有名人たちとのかかわりからお伝えします。
8 06/02 帝国の時代の「美酒」パンチ 日本で様々な果物や果汁を投入した「フルーツ・ポンチ」として広まった「パンチ(punch)」は、近代イギリスで好まれたアルコール飲料。蒸留酒に砂糖や香辛料で風味付けした混合酒(=カクテル)で、元々は温かい飲み物であったのが、帝国主義華やかなりし19世紀頃から冷たくして飲まれるようになったといわれています。その証拠ともいえるのが、パンチが頻繁に登場する19世紀イギリスの作家チャールズ・ディケンズの小説群です。ディケンズのテクストをたよりに、19世紀のイギリスにおいてパンチというアルコール飲料がいかなる存在であったか、その現実的役割と象徴的意味までも理解し掴みたいと思います。
9 06/09 イギリスのアルコール文化を狂わせたジン 悪い意味でイギリスの食文化、とりわけアルコール文化を語るうえで決して欠かせないのがジンです。この蒸留酒が18〜19世紀の近代イギリス社会において、一度ならず一種の「中毒」による社会問題を引き起こしたからですが、どんなにアルコール度数が高かろうと基本的にジン自体に罪はありません。むしろ根本的原因は、人びとが「酒に逃げる」状況を生み出していた当時のイギリス社会にあったと考えるべきでしょう。その具体的な如何について、近代イギリスの歴史および国民的画家ウィリアム・ホガースの版画をたよりに解説します。
10 06/16 ビールそしてパブという「聖域」 ワインとならび世界最古のアルコール飲料といわれるビールこそは、イギリスの「飲」の文化における一種の「聖域」。イギリスでコーヒーや紅茶が盛んに飲まれるようになった17,18世紀以降もビールが素知らぬ風で生き残り、今日にいたるまで愛飲され続けてきた最大の理由は、飲み物自体の魅力や長らくワインを輸入に頼らざるを得なかった国内事情もさることながら、何よりビールを提供する「パブ」というイギリス独特の生活文化空間にあったと思われます。諸々の理由からパブの存続が危ぶまれる面もある今日、今いちど原点に立ち返って、イギリスにおけるビールそしてパブという聖域について思いを馳せつつ本講座の締めくくりとさせていただきます。

講師紹介

齊藤 貴子
早稲田大学非常勤講師、上智大学大学院講師
早稲田大学教育学部英語英文学科卒、同大学院教育学研究科博士課程修了後、助手を経て現職。専門は近代イギリス文学・文化。主として詩と美術の相関を研究。『ラファエル前派の世界』(東京書籍)、『英国ロマン派女性詩選』(国文社)、『肖像画で読み解くイギリス史』(PHP研究所)、『イギリス恋愛詞華集―この瞬間を永遠に―』(研究社)など著訳書多数。
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