ジャンル 世界を知る

早稲田校

「飲」と「食」のイギリス文化史―「食」の部

  • 秋講座

齊藤 貴子(早稲田大学非常勤講師、上智大学大学院講師)

曜日 火曜日
時間 15:05~16:35
日程 全10回 ・10月06日 ~ 12月15日
(日程詳細)
10/06, 10/13, 10/20, 10/27, 11/10, 11/17, 11/24, 12/01, 12/08, 12/15
コード 130306
定員 30名
単位数 2
会員価格 受講料 ¥ 29,700
ビジター価格 受講料 ¥ 34,155

目標

・イギリスの歴史文化を広く深く学ぶ。
・イギリスという国の食文化について、言語芸術および視覚芸術の観点から認識をあらたにする。
・飲食という日常的かつ普遍的な不可欠の営み、なかでも今期はあえて伝統的に評判のふるわない「食」の観点から取り組むことで、イギリス歴史文化の「意外な」学びを広げる。

講義概要

「食」は生きていくうえで欠かせないもののひとつであり、それはどの時代どの国の人間でも変わりありません。ただし食材や調理法、メニュー及びマナー等の「食文化」が時代や国によって様々に異なる以上、イギリスという国およびその歴史文化をよく知るには、同国の食べ物を実際に口にするのはもちろん、今昔の食卓・食料事情についても知識を深めるに如くはありません。この前提に基づき、本講座では日本でもよく知られているイギリスの定番メニューや伝統料理、加えて古くから食卓に欠かすことのできない食材に注目し、代表的なイギリス文学や絵画、作家達を水先案内人として「食」の観点からイギリス歴史文化を縦横無尽に楽しみたいと思います。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 10/06 「飲み物」から「食べ物」になったチョコレート 16世紀にヨーロッパの人びとが初めてチョコレートに出会ったとき、それは確かに「飲み物」でした。今日でいうチョコレート・ドリンクが如何にして固形となり、「食べ物」となっていったのか――。その過程は、産業革命という名の技術革新はもちろん、イギリス社会そのものの近代化の道のりでもありました。近代イギリス産業社会の甘く苦い産物として、また宗教的理念のもとに理想社会を実現する壮大なる実験の結実として、今日の「食べる」チョコレートを再認識し、チョコレート製造「工場」誕生の軌跡をたどります。
2 10/13 古き良きイングランドのローストビーフ 歴史的にイギリス(特にイングランド)人は牛肉好きで知られ、それは基本的に今も変わらないといっていいでしょう。この国民性の証明に等しいのが、シェイクスピアの戯曲や18世紀イギリスの国民的画家ウィリアム・ホガースの描いた《古きイングランドのローストビーフ》という絵画です。この1枚の絵を頼りに、真偽のほどはともかく、文字通り枚挙に暇のないイギリスの「牛肉面白エピソード」をお伝えすることからはじめて、食肉としてのビーフの枠にとどまることなく、英仏の歴史的因縁その他にまで広く遠く思いを馳せます。
3 10/20 ジャガイモに翻弄される人びと 16世紀にヨーロッパの人びとが初めて出会ったのは、第1回で扱うチョコレートだけではなく、ヨーロッパの「もうひとつの主食」ともいうべきジャガイモもまたそうでした。高温多湿以外のあらゆる気候条件に適応可能、かつ栄養豊富なジャガイモは、ヨーロッパ北部のなかでも特にアイルランドで主要食材となっていきます。が、やがて19世紀になると、この食物が同国ないし近代イギリスの歴史を劇的に変えてしまったこと(=19世紀前半のいわゆる「ジャガイモ飢饉」)は有名な話です。この意味で、良くも悪くもジャガイモに翻弄された歴史上の人びとの来し方行く末を、19世紀のイギリス絵画等を通じてご紹介します。
4 10/27 フィッシュ・アンド・チップスが愛される理由 衣をつけて揚げた白身魚と、イギリス英語で「チップス(Chips)」と呼ばれる所謂フライド・ポテトの組み合わせ――御存知イギリス名物料理フィッシュ・アンド・チップスとは、「揚げ物+揚げ物」の一見胃もたれしそうなメニューに他なりません(㊟講師自身はこよなく愛する好物です)。それがなぜイギリスの代名詞的な代物になったかについては諸説ありますが、やはり最大の理由は18世紀以降の同国の産業化。そしてもうひとつ、古くは7世紀にまで遡り11世紀には完了したといっていいブリテン島のキリスト教化(=正確にはローマ・カトリック化)にあることは間違いありません。「食」と同様に文化の基底に横たわる「宗教」という視点から、イギリスという国の知られざる神秘の歴史をご紹介します。
5 11/10 東は東、西は西のニシン愛 「東は東、西は西」とは洋の東西の相違を前提に異文化理解を説く詩人ラドヤード・キプリングの有名な言葉で、こと「食」に関しては拳拳服膺すべしといった感もあります。しかし我らみな同じ人間。洋の東西で必ずしも相違点ばかりが目に付くわけでもなく、もちろん類似点も多々あるわけで、そのひとつが日本の干物によく似た塩漬けニシンを開いて燻製にした「キッパー(Kipper)」の存在でしょう。事実、イギリスの朝食の定番でもあるこのキッパーを前にすると、トーストではなく白米を所望したくなることしばしばです(㊟あくまで講師の個人的見解です)が、直前の第4回に引き続き宗教的観点も忘れず、聖と俗の両面からイギリスの魚食文化を紐解いていきます。
6 11/17 「命の糧」パンをめぐる攻防 古今イギリスにおける主食がパンであることに変わりはありませんが、中世の昔においてパンは単なる主食を超えた「命の種」。パンの価格、重量、品質は国によって規制されており、その製造を担うパン屋と粉屋にいたっては、ある種の特権階級だったといってもいいほどです。ゆえに近代に入り大量生産が可能になるまで、パンをめぐっては大小さまざまの犯罪がつきまといましたし、国家そのものが法的介入(「穀物法」の制定等)によりパンの価格を押し上げ国民を苦しめる異常事態も起こりました。確かな史料価値ある歴史的料理本『ビートン夫人の家政読本』等も参考にしながら、イギリス社会史における「パン」の多大なる存在感を浮き彫りにします。
7 11/24 本当はチーズの国?イギリス チーズで有名な国といえば、フランス、イタリア、スイス、オランダ、デンマーク……正直、イギリスの名前が「いの一番」にあがることはないように思います。しかしながら、イングランド南西部チェダー地方など世界的産地を擁し、俗に「プラウマンズランチ(Ploughman's lunch:農夫のランチ)」と呼ばれるチーズとパンを主体にハムやピクルス、野菜や果物等を盛り合わせたワンプレートセットが、イギリスの昔ながらのパブの定番メニューであることを忘れてはいけません。要は大陸諸国同様、イギリスももちろん食事にチーズが欠かせないお国柄であるという事実を、ロバート・ルイス・スティーブンソンの『宝島』や王室ゆかりの伝説等、広く豊かなイギリス文学および歴史文化の伝統から明らかにします。
8 12/01 「サンドウィッチ」伯爵の伝説ができあがるまで 第6回のパンに第7回のチーズ等の具をはさんだ「元祖ファーストフード」のサンドウィッチ。18世紀イギリスの貴族サンドウィッチ伯爵が発明したものといわれていますが、これはあくまで「伝説」。お手軽メニューのサンドウィッチの起源自体はもっと古く、しかも世界の各地にみられるのが実情です。しかしながら、火のない所に煙は立たぬのもまた確かで、イギリス貴族の名が料理名として広まったのには、それなりの理由、少なくとも「さもありなん」というある種の蓋然性があると考えるほうが自然でしょう。この見地から、当の伯爵ふくめ近代イギリス貴族の生態に広く目配りしながら「サンドウィッチ」の名の由来に迫りたいと思います。
9 12/08 七面鳥はなぜターキー? 第8回で詳しく取り上げるイギリスのサンドウィッチの具の定番、特に日本であまり見かけないそれといえば間違いなくターキー(Turkey)すなわち七面鳥です。ただ、なぜこの鳥が英語で「トルコ鳥」なる不可解な名称で呼ばれているのか。これには諸々の俗説があり、実はその俗説自体がイギリス東洋貿易の歴史を紐解く鍵となってくれます。今やスーパーに行けばかなりの確率でお目にかかれる手頃な鳥肉のひとつから、はるか16世紀に端を発するイギリスの海洋政策を振り返ることからはじめて、17世紀の日記文学、さらには19世紀初頭のオースティンの小説へと時代をくだりつつ、第2回で取り上げた牛肉とはまた一味異なる七面鳥という食肉の文化史的魅力をお伝えします。
10 12/15 馬より人が食すべきオート麦 オート麦を「イングランドでは馬に与えられるが、スコットランドでは人間の食べ物」と定義したことで歴史的に有名なのが、史上初の本格的英語辞書であるサミュエル・ジョンソンの『英語辞典』(1775)です。イングランド人著者のスコットランドへの偏見に満ちた事実上の差別ともいうべき定義ですが、これは彼がスコットランドを実際に訪れる約20年も前の弁であり、得てして強健なスコットランド人を養ってきたものが「オート麦」であること自体は事実です。偏見による暴言という思いがけないかたちで歴史にその名を刻むことになった穀物から、遠く遥かにスコットランドの歴史風土をのぞみます。

講師紹介

齊藤 貴子
早稲田大学非常勤講師、上智大学大学院講師
早稲田大学教育学部英語英文学科卒、同大学院教育学研究科博士課程修了後、助手を経て現職。専門は近代イギリス文学・文化。主として詩と美術の相関を研究。『ラファエル前派の世界』(東京書籍)、『英国ロマン派女性詩選』(国文社)、『肖像画で読み解くイギリス史』(PHP研究所)、『イギリス恋愛詞華集―この瞬間を永遠に―』(研究社)など著訳書多数。
  • 外国語 コースレベル選択の目安
  • 広報誌「早稲田の杜」
  • オープンカレッジ友の店